私は20代の頃、居酒屋の社員として働いていました。
仕事は楽しかったですが、会社は俗に言うブラック企業でした。
付き合っていた彼氏に振られてから半年、私は仕事に打ち込み恋愛を忘れていました。
「良かったらメールください」
それはお客様のお会計をしている時のこと。そんな言葉と共に、アドレスの書かれた小さなメモを渡されました。
相手は、数ヶ月前まで彼女と二人で来ていた常連様。その日は一人で来店されたので、
「今日はお一人なんですね」
と声をかけました。
「実はひと月前に別れてしまって」
寂しそうに笑う彼に親近感を覚え、私も半年前に別れたんですと打ち明けていました。
彼は私より二つ年上のデザイナー。
失恋したばかりなのに楽しそうに接客をする私に興味を持ち、話してみたいと思ったそうです。メールを続けるうちに、夢を持ち仕事に励む彼にどんどん惹かれていきました。
彼は土日休みで私は平日休みだったので、彼の仕事終わりにファミレスで待ち合わせというのがデートでした。
お互いの仕事や恋愛、夢の話まで…いつも日付が変わるまで、色々な話をしました。
そんなデートを数回重ねるうちに、2ヶ月が経っていました。私は二人の関係をハッキリさせたくて、彼を呼び出しました。
「好きです。付き合って欲しいです」
顔を上げることができず、ひたすら彼の返事を待ちました。
「ごめん。まだ彼女が忘れられない」
返ってきたのはそんな言葉。彼にとって私は、ただ話を聞いてくれる癒しの存在だったのです。
想いの大きさが違うと分かってから、彼とは自然に連絡を取らなくなりました。
「最近あのお客様来ないですね」
そうアルバイトに言われ、そうだねと微笑むことしかできませんでした。
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